第65期名人戦の感想~40という年齢

第65期名人戦7番勝負第6局が
去る6月15日、16日に行われ
森内俊之名人谷川浩司九段に勝って4勝2敗とし
名人位を防衛しました。

森内名人は名人位在位4期となり、
羽生善治三冠と並んで
永世名人の資格条件、
「名人位在位通算5期」にあと1期になった。

来期名人位のタイトル戦に
森内名人は防衛戦を戦う立場で
必ず出られる一方、
羽生三冠は順位戦を勝ち抜いてこないとタイトル戦を戦えないので、
形勢は森内名人がそうとう有利。
「18世名人は羽生」
と言われて久しいけれども
追い抜いて森内俊之18世名人になる可能性が
俄然高くなってきました。

すぐに渡辺明竜王がA級まで上ってくるだろうし、
そうなったら名人獲得じたい
いっそう難しくなってくる。
羽生さんの永世名人資格取得は
ここ2、3年に目標を定めないと
永久にチャンスが巡ってこなくなるかもしれません。
羽生さんはタイトルに執着しない人かと思うが、
名人位だけははっきりとタイトル奪取に照準を定めて、
そのための対策、のようなことを
しないといけなくなってきたような気がします。

今期名人戦は、
順位戦の段階から関西勢・谷川研究会勢が大活躍で、
その最後を飾るのが名人タイトル戦の谷川さんだったので、
谷川名人復位で締めくくるのがよいと思っていたので
残念な結果でした。

第6局は、
大流行中の「一手損角換わり」の
最新形と言ってもいいような、
つい先日放送されたNHK杯戦井上慶太八段勝又清和五段戦)でも
手順の前後はあったものの
59手までは同形の将棋があったばかりのもの。

最善手を指しつづければ、
谷川九段が勝つチャンスが十分ある内容でありながら
ポキっと折れたような印象の負け方であった。
見ようによれば潔さとも言えるが、
反面脆さとも考えられるこの負け方は
攻めの棋風の棋士にはありがちなこととはいえ
意外な感じがしました。

ひょっとすると年齢的なものから来るものかもしれません。

谷川さんは私よりひとつ年上の同年代です。
35を過ぎて優秀な将棋ソフトと指すようになって
ようやくまともに将棋を憶えはじめた私と違い、
谷川さんは私が大学でぶらぶらしていたころ
すでに名人を獲得していた雲上人ですが、
年齢に伴い体や心に生じてくるものは、
おそらく同じでしょう。

40になったばかりのころ
いくつかのタイトル奪還に成功した谷川さんは
40をテーマにした本を出しておられるが
その実感が伴ってくるのはむしろ厄年をすぎたころからでしょう。

40を過ぎると、勝つことへの執着とか
集中し続けるエネルギーとか
決定的な何かが急速になくなってくる。

年齢から来る生理的なものが、
まだ勝つチャンスはあるのに早々に負けを意識する
淡白さに繋がるような気がする。
いかに人一倍負けず嫌いで、
努力家の谷川さんであっても
人の自然には抗えないのかもしれません。

40を超えてからタイトル奪取をすることの難しさが
ここにあるように思う。

そう思うと、
40を超えてから名人になった
加藤一二三九段米長邦雄永世棋聖
終生A級だった大山康晴15世名人の偉大さが
分かるような気がしますね。

40以降わが身に訪れる急激な変化が
ともすれば生真面目と呼応して
鬱病へと向かわせることもあるから
谷川さんには、
谷川研究会の若い衆たちの力も借りつつ
うまく乗り切って、
大山15世、米長、加藤に
続いてもらいたいと願っています。
井上慶太八段畠山鎮六段
そして「将棋界の新庄剛志山﨑隆之六段
くれぐれも谷川さんのことよろしくお願いしますよ。

谷川さん誇り高い人だから
辛い時期かもしれません。
心身の急な下り坂をうまく軟着陸して、
これから40を迎える現代の棋士たちに
ひとつの手本となる形を示せるように
あるいは乗り越え方を指導できるように、
谷川さんにはなってもらいたいと思うのですよ、私は。
これからの谷川さんが果たす役割は、
これまで以上に大きい。
やることはまだ沢山ある。
それが谷川浩司という得がたい人だと思っています。

「チャイルドブランド」と呼ばれた羽生世代も
あと5年で40です。
たとえ天才羽生善治であろうと
皆と同じように40になるし
50にも60にもなる。
40になれば
若いエネルギーと勢いに
太刀打ちできないようになってくる。
負けても悔しいとすら感じなくなる。
そういう面からも羽生さんの永世名人になる機会は
そう多くはなくなっていると思う。

もう一人、前期プロ編入試験に合格し
フリークラス棋士になった瀬川晶司四段

瀬川さんも同じく35歳。

米長会長は今の段階から瀬川さんに
「将棋界への貢献」を期待しているようですが
勝負7割に普及・サービス3割ぐらいの感じで
5年は勝つことのほうに
重点を置くべきだと思うのです。
若さの利を武器にできるのはあと5年しかないのですから、
その間にとにかく貪欲に勝って、
順位戦C級2組編入や
タイトル挑戦を目指すほうがいい。
むろんこれはすべての棋士に言えることですけど。

そんなことも思わせた今期の名人戦でした。

(渡野川)


谷川浩司『四十歳までに何を学び、どう生かすか』(PHP研究所)


谷川浩司/谷岡 一郎『「ツキ」と「実力」の法則』(PHP研究所)

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    Excerpt: ささかま06が日々の雑感を徒然なるままに記していきます。おもに時事ネタ、将棋、読んだ本など。 Weblog: 続・ささかま徒然ブログ racked: 2006-07-30 18:25