渡辺明竜王対ボナンザ平手戦~見落としか大悪手か「伝説の△3九龍」

コンピュータ将棋ソフトについて
四の五の書き続けていた私としては
この記事は書かずにはおられまい、
ということで書きます。

2007年4月1日から、
コンピュータを使って対局するプロ棋戦
大和証券杯」が始まるのを記念して
エキシビション対局として
渡辺明竜王と将棋ソフト「ボナンザ(Bonanza)」との対局が
3月21日午後1時30分より
品川プリンスホテル「広島」の間で行われました。

リアルタイムでネットでの中継もあり
棋譜だけでなく動画配信もされ、
対局の様子も見学することができた。

日本将棋連盟最大のイベントにふさわしく、
コンピュータ将棋ではお馴染みの
勝又清和六段は会場にいながら裏方に廻り、
大盤解説に森内俊之名人鈴木大介八段
来期順位戦A級昇級を決めた
顔面受け」の木村一基七段(八段昇段決定)に加え
聞き手として中井広恵女流六段山田久美女流三段を配置するという
頗る豪華な顔ぶれであった。

解説陣の顔ぶれは、
将棋ソフトとそれなりに縁のある棋士ばかりですけどね。
森内名人は「激指」と駒落ちで対局して勝ち、
木村七段は駒落ちで負けているし、
鈴木八段も飛車角落ちで
AI将棋、激指、IS将棋と対戦したことがあります。

しかしプロと将棋ソフトの対局はすべて駒落ち
平手対局は、渡辺明竜王
そのプレッシャーは大変なものでしょう。

これ以外にも、
イベント会場に直接やってきた客人相手に
指導対局をするメンバーとして
プロ棋士が多数参加。

ボナンザ戦の立会人に
米長邦雄日本将棋連盟会長・永世棋聖
直々に登場するなど
力の入れようは尋常ではない。
大和証券の出資の多さも計り知れる。

当日の模様は
「大和証券杯ネット将棋公式ホームページ」
にリンクされたブログで、見ることができます。
ブログ「大和証券杯特別対局」

中継では、コメントとして
いろいろ検討内容が記された棋譜を閲覧できましたが
棋譜には著作権がないが
解説文にはあるかもしれないので
それそのものの掲載は遠慮して、
ここでは対局棋譜を低級棋士の私と、
最強将棋ソフト2つの「検討モード」を使って
解説してみたいと思います。

詳しい解説は対戦した当事者である

「渡辺明竜王のブログ」

に掲載されると思うので
そちらを参照してください。

対局棋譜はこれです。

・渡辺明竜王対「ボナンザ」平手戦
「将棋ソフト最強レベル戦棋譜置き場」

Biglobeストリームで配信されている
「Bonanza2.1コマーシャルエディション」発売イベントだった

Bonanza

アマチュア強豪棋士との対局では惨敗したボナンザですが
勝又五段の助言などもあり、
今回は得意の振飛車穴熊に一目散に組んだボナンザが
強さを発揮した見ごたえのある将棋になりました。

先手ボナンザが四間飛車穴熊に、
後手渡辺竜王が居飛車穴熊に組む
という対抗形の相穴熊持久戦。

22手目渡辺竜王が△32金とした手が
ボナンザ研究の成果というか工夫で、
早い段階で定跡を外す
という将棋ソフトに勝つためのセオリーに則った一手。

実際「定跡外し」は、
「ひねり飛車」や「ミレニアム(トーチカ)」などの定跡手順を
将棋ソフトが選んだときなど
極めて有効です。
ひねり飛車のとき定跡外されると
どうしていいのかソフトには分からず、
ひねり飛車に腰掛銀のような
分裂状態になったりします。

画像
図1


これは森内俊之名人が「可愛い狙い」と評した
ボナンザの角頭歩狙いの局面。

いちおう後手に△24歩と突かせたから
成果があった手のような気はしますが
その後のボナンザの指し手は緩かったような気がする。


画像
図2


47手目▲65歩でボナンザから開戦。
この手は「東大将棋8」の解析では悪手
ここから後手渡辺竜王有利に形勢が傾く。

その後、渡辺竜王の指しまわしが
公式戦ではまず見られないほど慎重で、
悪く言えばビビッているようで、
まるで自分の将棋を見ているみたいな気になるところもあった。

・参考棋譜、ボナンザ攻めにビビりつつ指す私の棋譜

その結果差が徐々に縮まるというような感じでしたが
低級棋士の私ですら嫌な筋だな~と思っていたところを
竜王が狙い、ボナンザ自ら作った玉頭の傷を攻めて
優勢を築くことに成功。

そしてクライマックスがこの局面です。

画像図3


96手目△39龍

終局後に、立会人のCSAの人も米長永世棋聖も
これをボナンザの「見落とし」と評するほど、
検討になかった手。

大盤解説の木村一基七段
堅実に勝てる筋を検討していたので
この手は全くのノーマーク。
渡辺竜王がこれを指すと、

俺(渡辺竜王)の終盤力は
木村なんぞとは全然違うぞというような手だ


と評した。

これがボナンザの反省点、
としそうなムードだったが
さすが開発者の保木邦仁さん。
終局後のインタビューで、

課題は序盤で、駒の位置関係の把握が重要

といっていた。
将棋が分からない保木邦仁という人物が
なぜこれほど強いソフトを作れたのか
この一言で腑に落ちたような気がします。

私と将棋ソフトの検討では、
どうやら保木さんの言うことのほうが正解のようで
96手目の▲39龍は
別に見落としてもよかったようですよ。

間違ってはいけなかったのは
それではなくむしろ101手目

▲28同銀

この局面です。
画像
図4


ボナンザの決定的な悪手。

私もボナンザと指しているとき
しばしば遭遇することがあるボナンザの癖で、
負けている将棋に逆転勝ちできたことすらある
既知の現象です。

・参考棋譜、私の対ボナンザ戦

最終盤の選択肢が二択ほどしかない
極めて手の幅の狭い局面で

ボナンザくんは
悪いほうの手を選ぶことがあるんですよなぜか。

なぜでしょうかね?
全幅検索の欠陥でしょうか?
あるいは評価関数の問題?

この「ボナンザ最大の欠点
が出たお陰で、渡辺竜王は勝てた、
ということができるようなのです。

それがなかったら、
勝敗はわからなかったかもしれないんですよ。

少なくとも、形勢が互角になり
もう一回終盤戦が必要になる
長い将棋にはなっただろうということができるようです。

木村一基七段の大盤解説でも
少し触れた手なんですが、
101手目の▲28同銀のときに
実は▲28同馬という手があるのです。

画像
図5


この局面で「東大将棋8」も「激指6」も
揃って▲28同馬が勝るという検討結果を出している。

画像
「激指6」の検討結果


画像
「東大将棋8」の検討結果


こうすると後手渡辺竜王の持ち駒が
からにかわる。
そうなったときこういう局面が現れるわけです。

画像
図6


木村七段

さあ中井さんここから華麗に寄せてください

と話を振った後、
△46角打ちに▲37香間とする
とんちんかんな受けをボナンザにさせて
渡辺竜王の勝ちとして検討終了させたのですけど
実際に将棋ソフトの検討モードで検討させると
それほど簡単な局面ではないようなのですよ。

間駒せずに▲38玉と寄ったら
詰まない。

東大将棋8」の検討モードで熟考させても

画像


こういう検討内容で1時間経っても変わらない。

激指6」に及んでは

画像


このような状態で、「形勢互角」として
検討終了してしまいました。

将棋ソフトがいくら読んでも発見できない妙手を
渡辺竜王が用意していて
読みきった上での△39龍だったのか。

その可能性ももちろんあります。
竜王戦タイトル戦第7局での寄せは、
どの将棋ソフトも全く読めていない手順でしたから
そういうのがあったのかもしれない。
そう思わせるところが渡辺竜王の
すごいところでもあるんですけど。

渡辺明竜王は、
ここからどう詰めるつもりだったのか?
解説して欲しいと思います。
ご自身で。

もしも詰まないならば
△39龍はボナンザの見落としではなく
渡辺竜王の大悪手ということになります。
それをボナンザの▲28同銀という
定番の悪手によって助けられた
ということになる。

よって私と将棋ソフトの検討の結論はこうです。

「△39龍はボナンザの見落としか
渡辺竜王の大悪手か、結論は保留!」


この結論は渡辺明竜王に解説してもらって
だそうではないか。
ということでトラックバック送っておくので、
渡辺先生よろしくお願いしますねん♪

しかしNHKよ。
将棋は「打つ」もんちゃうで、「指す」もんやで。
「将棋を打つ」という将棋の初歩すら分かってない記者派遣するのは
失礼ちゃいまっか?
そんなNHKよりブログ記者のほうが
よっぽどええ記事書きまっせ。


と書きましたがこれは間違いで、
「将棋を打つ」と言ったのは直後の
サンケイスポーツの記者さんでした。
「テレビ向けに解かりやすく言え」
という偉そうなもの言いにむっとしたまま聞いていたので
その印象が残ったようです。
お詫びして訂正いたします。

でもNHKよりブログ記者のほうが
ええ記事書きまっせ、ほんまに。

それはともかくボナンザ強くなったわ。
私のような低級棋士は相手にしてもらえなくなる日も
そう遠くなさそう。
最後に今のままでも十分怖い
ボナンザ攻めの苦しみを味わいたくば
この二つのどちらかを買えばよい、
ということだけは付け加えておこうと思ふ。

■ボナンザ思考エンジン搭載「銀星将棋6~双頭の龍」

(「世界最強銀星将棋6 双頭の龍」レビュー)

■Bonanza2.1コマーシャルエディション

(「ボナンザ2.1コマーシャルエディション」レビュー)

なお今回の検討に加わってもらった強豪将棋ソフトはこちら

■東大将棋8

(「「最強 東大将棋8」」レビュー)

■激指6

(「スーパー将棋マシン激指6」レビュー)

ということで
非常に楽しんでしまったわけで
関係者各位には
心より御礼申し上げます。

(渡野川)

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Bonanza 2.1 Commercial Edition

この記事へのコメント

将棋道楽家
2007年03月22日 09:38
ありがとうございます。すっかり見落としてました。渡野川さんのお陰で全貌と詳細が手にとるように分かりました。「僕と将棋とマイペースな日々」のブログでこの日のボナンザのマシンスペックが紹介されていましたが、このボナンザ強くないですか?確かに終盤の緩さはありますが、演算処理能力がハンパでないように思えます。それでも、自分から攻めて行くところがボナンザらしいですよね。仕掛けのタイミングを工夫しないと、保木さんも改良されると思いますが、これが、東大将棋だったら、6五歩の開戦は避けていたような気がしてなりません。何はともかく、お声がけありがとうございます。
ケンチャンア
2007年03月22日 13:01
こんにちは。お邪魔します。問題の局面は詰まさなければ負けという場面ではないですよね。

77角成は詰めろになっていないのかな?渡辺さんだし何とかするのではないでしょうか。
とおりすがり
2007年03月22日 16:19
竜王がプログで回答してますね。。。
さすがと言うことですかね
西山荘
2007年03月22日 21:46
3九竜は、やはり正着です。
竜王のブログご覧ください。
解説されてます。
まもる君
2007年03月27日 20:34
渡野川さん こんにちは 私も楽しみました。とてもおもしろかったです。最近ですけど激指4の棋士と七番勝負の最初の 矢内さんに62戦目にして初めて勝ちました。\( ^∇^)/θもう当分指しません(*^-^*)

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